食物繊維が生命力の向上に必要な理由とは?
前々回の記事で、腸内細菌の働きについて書きましたが、その腸内細菌が元気に働けるような腸内環境をつくり、腸内フローラを改善して生命力を高めていくためには、「食物繊維」の存在が非常に重要になってきます。
ではなぜ食物繊維が、腸内細菌の働きを良くし、生命力を向上させるのに役立つのでしょうか?
その理由は、食物繊維こそが、腸もしくは腸内細菌にとって最も必要な食べ物だからです。
このように述べてもピンとこない方は多いかもしれません。しかしこのことに関して、たとえば酵素栄養学の第一人者である鶴見隆史氏は、
食物繊維は、炭水化物の一種ですが、一昔前までは「食物の残りカス」という扱いでした。しかし最近では、評価はうなぎのぼりで「人間の体で消化できないもの」という定義が何度も修正され、現在では「小腸までの過程で消化されずに大腸にいたる食品成分」と書き直されています。
そして、その重要性が認められ、今では第六の栄養素として積極的な摂取が求められているのです。(鶴見隆史『酵素の謎 なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか』p161)
と述べています。そしてその食物繊維の主な作用として、以下を挙げています。
食物繊維の主な作用
- 便の構成要素となり、便量を増やす
- 腸の蠕動運動を活発にして、内容物を速やかに移動させる
- 発がん物質、有害菌、有害物質を吸着して、便として排泄する
- 消化管の働きを活発にする
- 糖の吸収速度を遅くして、食後の血糖値の上昇を防ぐ
- 胆汁酸を吸着して、便として排泄する
- コレステロールの余分な吸収を防ぐ
- ナトリウムの過剰摂取を防ぐ
- 善玉菌のエサになり、腸内環境を改善する
- 膵液や胆汁の分泌量が増え、酵素の量を多くする
- 不溶性食物繊維キチン・キトサンは、脂肪の過剰摂取を抑制する
- 短鎖脂肪酸のエサになる
(鶴見隆史『「酵素の謎」 なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか』p162)
食物繊維が生命力を高めるために必要である理由
このように食物繊維には、多くの効果効能があるわけですが、では、なぜ食物繊維が体に良い働きをたくさんしてくれるのでしょうか?
その理由は先程も述べたように、食物繊維が「腸」もしくは「腸内フローラ」にとって、もっとも必要不可欠な栄養だからです。
「腸」は他の臓器よりも先に出来た生命の源であり、その「腸」もしくは「腸内細菌」は栄養源として食物繊維を必要としているからこそ、その食物繊維には、私たちの健康を維持するための様々な働きがあるのだと言えます。
ちなみに食物繊維は、鶴見氏も述べていたように、消化酵素によって分解され、小腸から吸収されないという性質があります。ではなぜ他の栄養素のように体内に吸収されないのかといえば、それは繰り返すようですが、腸内細菌のエサになるためなのです。
また、今は肉食が当たり前のようになっていますが、そもそも動物は植物から生きるために必要なエネルギーを得ていたということも忘れてはなりません。
そのため、食物繊維が不足する食生活を送ってしまうと、腸や腸内細菌が元気を失ってしまい、そのことによって、私たち自身の元気も失われてしまうのです。
さらに、食物繊維の不足は便秘を引き起こすと言われていますが、万病の源とされる便秘が起こってくるのも、食物繊維の量が減ることにより、大腸のエネルギーが無くなって、便を外に排出するための腸の蠕動(ぜんどう)運動が起きにくくなっているからだと考えられます。
したがって、食物繊維をたくさん摂るようにすることで、腸もしくは腸内細菌を元気にすることは、私たちの元気の源である生命力を高めることにつながっていくと思われます。
日本人の食物繊維を摂る量は減ってきている
しかし問題なのは、日本人の食物繊維量が年々減少していることです。
食物繊維は1日に最低でも20~25gは摂らなければならないとされていますが、現在の日本人の平均摂取量は、15~16g程度だと言います。
食物繊維が不足している背景には、食生活の欧米化が進み、肉食が中心になったことや、インスタントラーメンなど、食物繊維がほとんど含まれていない加工食品の増加が考えられます。
このことに関して、先程の鶴見隆史氏も、「日本人の摂取量は年々減少しており、この50年で半減しています。がんや糖尿病など、多くの慢性疾患の急増は、この食物繊維摂取量の減退がおおいに影響している私は考えています」と述べています。
したがって、日頃の食生活において、食物繊維が不足しないようにすることが、生活習慣などの病気を防ぐために大切になってきます。
また冒頭でも述べたように、食物繊維をたくさん摂ることは、腸内細菌の集まりである腸内フローラを改善し、生命力を高めることにもつながっていきます。